Wednesday, 12 December 2012

選択肢 - Choices


先日の2007年日本管打楽器コンクールでは、テューバ部門の審査員の一人として参加することが出来、私は大変光栄に思っています。最初の2日間では、141人のコンクール出場者から次の週に行われる2次予選へと進む17人のプレイヤーを選出するというのが私の仕事でした。トーマス・スティーブンスのAria con Variazioniを141回聴きましたが、どの奏者を進ませるかという確かな判断を得るために、一人ひとりの演奏を覚えておくというその作業は、私にとって大変興味深いものでした。今、私の机の上に、141の感想が書かれた厚い紙の束が置かれています。141回もAria con Variazioniを聴けば、きっと退屈するはずだと思われるでしょう。確かに全てを聴くことは長時間に及びましたが、最後の最後までそれは興味深いものでした。
一番、関心を引き起こされた事実は、141人全てが異なった演奏だったということです。同じ音も存在しなければ、同じアーティキュレーションの人もいませんでした。しかし、スタイルやフレージングの事を述べるとすれば、141人ほとんどの人が著しく同じだったのです。ほとんどのプレイヤーが、楽譜に印刷されたまさにその曲すべての詳細を、ただ完璧に演奏しようとしていました。その中でも、個性的な演奏をする勇気と信念を持った奏者17人は、2次予選へと進んだのです。
私達はたいてい、暗黙の社会的ルールにのっとった振る舞いが要求されるような社会に生きています。そして、それは普通は良いことです。しかしながら、音楽やその他の芸術では、違いというものが私達を特別にし、興味深いものにし、私達の音楽を美しくし、そして独特なものにするのです。全ての人に気に入ってもらおうとすると、個性をなくしてしまい、その結果、退屈になってしまう危険が常に存在します。こういったことは大変頻繁に起こることです。コンクールやコンサート、試験やオーディションにおいて、最も満足しなければならない人というのは、自分自身なのです。音楽的、芸術的決定をするためには、普段、スムーズな良い演奏をするためにする練習とは別の練習を必要とします。良い芸術的な決定をするためには経験を必要とし、経験は、異なったことを試してみることによって得られるのです。
様々な音楽の可能性を学ぶための最も大切な練習は、聴くことなのかもしれません。私達が、音楽の中でどういったことが出来るのかという多くの例を聴けば聴くほど、私達は私達自身の個人的音楽性を開拓していく際に「試してみること」が可能となります。適切な解釈はたくさん存在し、試せば試すほど、個人的スタイルを見つけるための選択肢は広がっていくのです。
もちろん、アンサンブルの中においては、私達は快く個性を妥協し、それぞれの音楽形態が持つスタイルの中で演奏しなければなりません。がしかし、私達それぞれが個性を持っているという事実は、どんなシチュエーションにおいても、音楽を作っていくための質を高めることになるでしょう。

素晴らしい音楽家は皆、強い意見を持っています。新しいアイディアをどんどん試し、人とは違うということに勇気を持ってください。そういったことが私達の音楽をより良くさせるのです!
2007年11月18日 東京にて

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